とりとめのない雑記

雑記。に遠く及ばない何か。

「バララッシュ」 福島聡 著

 

アニメ制作を通じた青春群像劇で、「映像研には手を出すな!」がポップかつテイストフルなオタクの夢の名作だとしたら、「バララッシュ」はトラディショナルでビタースイートなオタクの夢の名作です。

 

誌面で連載を追ってた方も、最終巻だけでも購入してほしいかな。
奥付の後に、見たかった「その後」のショート漫画があります!

 

1話目で結末を出すフラッシュフォワードの手法で描かれた漫画です。
まず一話目のタイトルからして「大団円」。

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第一話目で結末を知っているだけに、オタクという言葉に少し後ろめたさを持つ世代にとって、心が抉られそうな描写も「そんな時代もあったよね~」と安心して読み進められます。

また凡才山口と天才宇部との関係や、不破監督の一見して険のある物言いや態度にも、第一話ですでにアンサーがでているので、必要以上に深読みすることもなく、さくさくと読み進められます。

 

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帽子といい、愛されてるよね山口。

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もし時系列順に物語のスタートが第二話からの展開だったとしたら、重苦しい作品になっていたと思います。
大団円の未来の結末を第一話に持ってきたことで、爽やかに苦悩する青春群像劇になりえたのでしょう。

 

絶対、山口世代がまだ業界での権限ある今のうちに、アニメ化してほしい傑作です!

 

打ち切り臭もありますが、「バララッシュ」は全3巻(おまけ漫画コミ)できれいにまとまっている傑作だと思います。

 

 

装丁も凝っていて楽しい。
ラフ画っぽい表紙絵に、パートカラーっぽい色彩された帯がついているところとか。
装丁の裏とか。
何よりも奥付の後にある10ページのおまけ漫画とか。

「セス・アイボリーの21日」  星野之宣 著

最近漫画は縦読み(ネット漫画系)か横読み(書籍系)か考えていて、ふと圧倒的密度の本作を思い出し、久々に再読しました。5分で読めるボリュームですし。

 

うん。今の段階では横読みの表現力に軍配ですね。

 

ネット漫画の縦読みではまだまだ表現できない密度がある。

読み方の変化(雑誌からタブレット)でいずれは変わっていくでしょうが、横読みのコマ割り文化はすたれないで欲しいものです。

 

閑話休題

 

全24ページの短編ですので、ぜひ一読をお薦めしたいです。

 

正確には「スターダストメモリーズ」という短編漫画オムニバスの6話目です。

個人的な短編漫画ベスト10の中で、入れ替わることなく常にランクインしています。

 

21日間のサバイバルのカウントダウンが始まってから、21ページ目に救助船がくるというのもふるっています。

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物語は生物の成長サイクル(老化)が異常に早い無人惑星に不時着した主人公が、クローン技術と圧縮学習技術を用い、世代を重ねることにより命を繋ぎ、救出を待つというもの。

 

クローンは法律で禁止されている‥‥ので救出された「三代目セス」は「初代セス」として生きてゆくでしょう。

しかし1ページ目の不時着した「初代セス」と

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最終ページの救出された「三代目セス」は同一人物といえるのでしょうか?

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救出隊目線からは、同一人物であると断定せざるをえません。

そもそも目の前の本人に、そんな疑問すら抱かないでしょう。

 

ですが私たち読者と「三代目セス」だけは知っています。

その間にいた「二代目セス」の存在と彼女の悲しみと葛藤を。

 

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短いながら色々と考えさせられる物語です。

 

 

 

 

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(雑記)

 

これを読み返す私も、初読の時より年をとりました。

 

見苦しくも「後進の指導」とか、社会や人生での自分の存在意義を考えることもでてきました。悲しいかな「教えたがりおじさん」の爆誕です。

そうなってくると、短いながら生きる目的を知り、目的を果たして死んでいく「二代目セス」の人生は、幸福で充実したものではなかったかと思うように変わってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

「ナツノクモ」  篠房六郎 著

 

先見性は充分ありました(2003年~2007年掲載作品)。

 

近未来ネットゲームのアバターを纏ったカウンセリングという設定や、魅力的な登場人物達のアイデンティティを求める群像劇は、現代でリメイクしてほしい作品です。

 

最終巻末に「描き残したことは色々あれどお話はひとまずここで終わります」と著者のメッセージがあります。ひとまずってことは続きあると期待していた時期もありました、淡く。

 

今でも、くるみ(現実の家族ごっこ)とリーゼ(ネット上の家族ごっこ)が交わる話の続きを読みたいと思っています。

 

 

この漫画を読み返したのはこの記事を読んだから。

 

note.com

 

バーチャルネットアイドルボーカロイドの隆盛を引継ぎ、世間からの受容を経て、理想の女性キャラ自体の自演をプロデュースするというバ美肉バーチャル美少女受肉)」が一定の支持を得られてきてます。

まさに故)富沢雅彦さんの「オタクは作中のヒロインを異性としてではなく、女性化した自分の憧れとして熱狂する」というロジックが、40年程たって具現化してきました。

 

架空のキャラクターになりきり自分の意見を発言させる手法は、当たり前ですがネット文化以前からもありました。

ただスマホの登場で、ネット文化がパソコン上から解放され爆発的進化をとげたように、デバイスの進化によって、存在がリアルタイムになってきたことによって「受肉」文化も爆発的進化をとげるでしょう。

 

性別や年齢は関係なく、バーチャルな世界で「魂」以外まったく異なる存在で生きていける可能性。

内面の有りようで外面は変わり、その外面からの影響で内面も変化してゆく世界。

LGBTのT区分でもなく、生物学的男女とイデア的男女が一人の中に同居する人間が認められる舞台が現れはじめました。

 

それでは生身に近い身体感覚でキャラを動かす世界がくると、自分の主体はどっちになるのでしょうか?主体は本人の気持ちの問題だったり、稼いでる方だったり?

 

ナツノクモ」はそんな二つの社会(リアルとネット)でのアイデンティティの有りようを予見させる漫画でした。

 

例えばジージャやミカオが象徴的。

カウンセリングを受ける側だった幼女キャラが、内面の変化とともにカウンセリングを手伝う大人側に回ったり

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若いキャラから老人キャラに変更したら仕草も変わったり

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またジージャは外装は大人でも、中身は年相応に性的に無頓着なところがあったり(中身が大人のイタカは「赤ちゃんプレイ」に嫌悪感丸出し)。そんなとこも予見的。

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反面、受肉したことで、もうひとつの現実に身体感覚をもって向き合わなくてはならない恐怖。

能力主義社会のエリートの無自覚な差別と、無力感と空虚な自尊心。

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どんな外装を纏っても、もう一つの現実で分かった、むきだしの空っぽの自分。

 

アレハンドロ・ゴンサレス監督の「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」やトッド・フィリップス監督の「ジョーカー」の妄想を知った後では、ゴローを笑えない。

押井守監督の「イノセンス」やテリー・ギリアム監督の「未来世紀ブラジル」のように、誰かの作為で植え付けられた疑似記憶の方が、他責できる分惨めな自分の本質を見つめなおさずにすみ、ゴローもまだ救いがあったかもしれない。

 

そして

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「精神の動物園」で自分より弱者と思いマウントしてきた人達にも見放され、無価値な自分に絶望しての犯行。

現実の「親ガチャ」に理不尽な怒りをぶつけ、死体の転がる部屋でヘッドギアをつけてうずくまり、警察に発見されるまで仮想空間で自殺を繰り返す。

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秋葉原無差別殺傷事件京王線刺傷事件に近い精神構造。

生身の自分にも仮想空間でなりたかった自分にも両方に裏切られたら絶望しかない。

(辛いことだが)つまらない人間はどんな仮面をかぶっても、いずれ見透かされるのだ。

 

「現実×妄想」「現実×空想」の対立する対比構図ではなく、老若男女という区分すらなくなり「現実+もう一つの現実」の逃げられない並列する対比構造を提示したナツノクモは‥‥可能性あったよね。

 

もったいないというかもう少し頑張ってほしかったなと。

 

 

 

 

 

 

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リーゼの現実の家は裕福そうに見えず、ヤングケアラーっぽい描写もありました。

そんな中、ゲーム内の大量の写真(思い出)に囲まれている様は、リドリー・スコット監督の「ブレードランナー」を想起させます。

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あれもアイデンティティを探るSF映画として秀逸でした。

重ね重ね面白いテーマを選んでただけに、ナツノクモの不完全燃焼は残念です。

 

 

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(雑記)

最近話題の表現規制フェミおばさん達も、世間体がなければ、受肉するとしたら若くてかわいい女の子を選ぶのが多数だと思う。

ルッキズムと言われようが、身なりを整えることは動物の本能であり、社会の要求でもあるから。


それとも威厳に満ちた人物のなりをして、持論を語るのでしょうか?

私には彼女達とゴローの違いはないようにも思えます。

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ただでさえネット上では才能ある人や素晴らしい実績で溢れているのに、そこに知識や才能や実績のない者が飛び込むには過酷すぎる。

いずれにせよ老若男女等の区分がなくなり、能力主義という、認めざるを得ない無慈悲な差別の中におかれた時、格差社会もますます拡大せざるを得ないよなあ。

 

 

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ネット社会で、生物的男女とイデア的男女が同居する人間が認められるとしたら‥‥デジタルトランスジェンダー、略してDTとか‥‥。

言ってみたかっただけです。

 

自分も気づかない内面に絶望するといえば、タルコフスキー監督の「ストーカー」があったねえ。

 

「おやすみシェヘラザード」に敬意を表し、映画の紹介を含め「ナツノクモ」の感想を書いてみました。

 

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(追記)

青識亜論さんの公開質問状読みました。

まさにその通りでしょう。

現実の肉体の年齢や性別を超えて、まったく異なる理想の身体になるという、新しいセクシュアリティを獲得した人々の意思と想いがこもったこの新しい文化に、「女性差別」のレッテルを貼りつけ、踏みにじろうとしているのです。

 

 

で、雑記で書いたことの繰り返しになりますが、分身すら否定されたらつらいよね。

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「辺獄のシュヴェスタ」  竹良実 著

コロナが計画された疫病だとしたら?

そんな妄想をするうちに「辺獄のシュヴェスタ」を思い出しました。

 

再読。
何度読んでも見事なプロット。

全6巻(32話)と手軽に読めるものの、重厚な内容と展開。

 

未読の方にはぜひ薦めたい漫画の一つ。

 

残酷描写が~という声もありますが、少し古風な少女漫画っぽさを感じる絵柄だからか、意外とすんなり読めます。

緊張感、そのあとのカタルシスが堪らない名作です。

 

ネタバレでも揺らがないストーリーと丁寧な描写、深いテーマのある漫画ですので‥‥結末を言いますと、最後は少女達の笑顔で終わる大団円。

 

安全の担保された絶叫マシーンですのでぜひ。

 

 

 

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ここから先はさらにネタバレ含みます。

 

ストーリーの大筋は、割れた卵は戻らないと命の大切さを教えられた少女が、悩みながらも復讐の為に人の頭を卵のように割る話(既読の方に対しての超訳)。

 

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これが本作のメインフレーム

 

物語上殺害する結末は最初からの予想通り。

過程にある、狡猾な様々な試練や妨害を知恵と友情でクリアしてゆく所や仲間との絆が見所。

 

著者の体調不良説や打切り説などありましたが、結果論的には中だるみがなく最高のエンディングを迎えております。

 

どんなに面白いコンセプトの漫画でも、必要以上に延ばせば密度が薄くなってしまいがち。

「辺獄のシュヴェスタ」はもう少し読みたいという腹八分目のところで終わるので、読後感が胃もたれせずさわやかな感じです。

 

閑話休題

 

この漫画の一番の魅力は主人公エラの、考えることを放棄せず、矛盾を飲み込み続けながら妥協せず生きていく力強い生き方。

 

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肉体的、精神的にここまでタフで、優しさもそなえたヒロインの漫画を私は知らない。

 

そのエラの武器は、圧倒的な科学的懐疑主義なところ。

知識と観察で疑いつくし、それでも残ったものを選んでゆく。さらに自分の行いにでさえ自問自答を繰り返す。

 

対するエラの敵役のエーデルガルトは神の叡智(最先端の知識)を利用して宗教的奇蹟を演出、民衆を教化し理想的な社会を実現させようとする人物。

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神を中心とした超管理社会を正義と信じて疑わない人。

 

SF作家アーサー・C・クラークの「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」との言葉の通り、寡占的に集めた知識を恣意的に奇蹟として利用していく

 

魔女狩りも情報統制の一面を持っていたし

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女子修道院が「見渡す者」育成の為の人体実験場だったり

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票の為に人体実験で得た知識を使って奇蹟を起こしたり

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疫病を恣意的に流行らせ治す奇跡の画策したり

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目的の為なら手段を選ばず

懐疑主義者の到達点として、先述のアーサー・C・クラーク「人類の一番の悲劇は、道徳が宗教にハイジャックされたことだ」の発言がありますが正にそれ。

 

そのような環境下でも、エラは修道院の奇蹟を徹底的に疑い、数々の試練を乗り越えていく。

だがその武器は諸刃の剣で、ストイックに自分の行いにも刃を向けてしまう。

 

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後半は復讐という考えも変わっていくほどに。

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そしてエラは自分の選択は何であれ、選択した行動の結果を他人のせいにはしない。

 

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全てを背負い進もうとするエラに、まわりは突き動かされ運命は変わる

 

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エラの敵役のジビエさえも。

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それだけに最終巻の裏表紙や帯のセンスだけはもったいなかった。

「少女は復讐の奴隷と成る」じゃないでしょう。

あと帯の「運命よ、お前にみせてやる。私が私自身を燃やしつくす炎の色を」の切り抜きデザインは‥‥格ゲーのキャラ紹介じゃないんだから。エラは炎使いか?

 

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‥‥と、エラ礼賛を書きなぐっているうちに、4人の仲間達や舞台背景のことも語りたくなってきました。

 

ホント、全32話と短いですが密度ある漫画です。

 

傑作「辺獄のシュヴェスタ」を未読なのに、ここまでこの駄文を読んで頂いた方は、絶対読んで頂きたい。

 

漫画好きなら知らなきゃ損です!

 

 

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免罪符なんてものが横行し、ルターの宗教改革が始まった頃の時代背景。

作中でもがルターのドイツ語訳聖書やプロテスタント(抗議者)が重要な役割で出てきます。

 

最後に史実にあるパッサウ条約の記述が出てくると、本当にエラ達は実存したような気もします。

 

架空歴史ファンタジーとしては後宮小説以来の心地よい錯覚

 

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かたやエラと対比するように自分の責任を他に預けてる人達。

自分の行動は神や上長が全て責任を持ってくれると、迷いなく正義を信じ残酷になれた人達の末路。

 

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そうなるよね。

 

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一番好きなキャラはコルドゥラでした。

まさかこれがフラグとは‥‥。

 

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とは言えエラの生き方はしんどい。

しかし全てにおいて仲間を優先するという、マフィア的な身内主義にも逃げなかった。

 

 

単純な合理主義、身内贔屓だけでなく、タビタを救った話はだからこそ作中必要だったと思う。

そこに誘導したコルドゥラ、気づいたエラ尊い

 

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先述のアーサー・C・クラーク「人類の一番の悲劇は、道徳が宗教にハイジャックされたことだ」にもある「道徳」という概念。

 

note.com

 

「道徳的に正しい」ことは、それを「道徳的に正しい」ということにした方が、社会の多数派の人が得をするから、それが「道徳的に正しい」ということにしただけであって、それは「真実かどうか?」というと、嘘なことが多いのです。

道徳というのは、嘘と欺瞞で作られた、便利で有益な装置なのだけど、それがそういう装置であることをみなが忘却することによって成り立つ装置なのです。

 

とすると、エーデルガルトにも三分の理はある?

 

 

 

 

 

 

「うみそらかぜに花2」  大石まさる 著

本日発売!

アマゾンから届きました。

 

2冊入っていました。

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予約注文ダブってしておりました。

大石まさるさんの著作好きだからいいですけど‥‥。

 

持っていたこと忘れて書店でダブリ買いをしたことも過去ありましたが、ネットショッピングでは初めて。自分が心配。

 

月間サチサチ好きだったな。

 

 

 

 

「手指の鬼」  鏡ハルカ 著

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短編漫画の真髄。

絵で語る漫画ならではの名作。

 

昨年発売のアフタヌーン四季賞で拝読しましたが、最近コミックDAYSでもUP(無料)されたので再読。

せつない話ですが、やっぱりよかった。

 

それと恥ずかしながら今回の再読で気がついたのですが、勝部と捨の昼寝の際にかかっていた羽織がお峰の着ていた柄。

 

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やたらと絡んでくるお峰の態度、勝部を逃がした理由、鬼の面をもった柔和な老婆の外観の物の怪に新たな解釈が生まれ、感想を書きたくなりました。

 

お峰、過去に稚児食いの儀の子を育て、鬼に食べられた経験がありそう。

 

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閑話休題

 

ストーリーは、鬼の勝部が、人間の幼子を攫い大切に育て7つになる前に食らう「稚児食い」という習わしがある鬼の集落で、攫った幼子()を育てているうちに複雑な感情が芽生え、を食われる前日に逃がします。

そしてが成人して鬼の討伐隊入り、勝部を捕らえ処刑に立ち会うというもの。

 

は逃げる前に、勝部に指を齧られます。

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が討伐隊になったということは、可愛がられた思い出とその時のトラウマに悶々とし、勝部に再会し真意を問う可能性を信じてのことでしょう。

 

捕らえた勝部の悪態に厳しい目を向ける

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勝部の昔語りによって、過去の真相を知り、慈しみをもって育てられた思い出(しかも勝部は自覚無し)がわきあがり、唇をふるわせ追いすがろうします。

 

そして語ることによって、自分の感情と捕らえた男がと気づく勝部。

 

の幼少期、勝部に向けられるの母を見るような眼差しに湧き上がる感情(今風だともやもや?)を把握整理できず、厳しい目をして思った

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が柔和な笑顔で「そんな目でみるなったら」と言いながら処刑されるエンド。

 

最後の一コマ、中世の宗教画的というか。

 

文芸ですと杜子春のように、最後に「母上」とセリフがありそうですがここは漫画、セリフも「そんな目」も描かず、一コマに喜(勝部)、怒(処刑者)、哀()、楽(勝部)の物語すべてを表現し、たたんでます。

 

すげ。

 

無料で読めます。

短いですのでぜひ読んで確認してほしい。

 

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お峰勝部へのセリフ「あなたは捨様を慈しんでいたのだわ!!」。

作中、お峰だけが勝部のことを分かっていた。

本人達も分かってないのに。

絶対同じような思いをした経験者なんだろうな‥‥。

 

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馬に蹴られるってことは恋路?!

 

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モアイでは縦読み、コミックDAYSでは横読みです。

漫画を語る上で、そろそろ避けては通れない話題かも。

私は横読みの方が好きだな。

 

 

 

「暴虐外道無法地帯ガガガガ」山下ユタカ 著

 

作中の1日を、紆余曲折の上10年かけて完結させた大傑作。

 

ただ何というか。

作品紹介文が『伝説のハードコア・バイオレンス』とか『唯一無比のハードコア・バイオレンス』とか『圧倒的ハードコア・バイオレンス』とか‥‥本質はそこじゃないでしょうと。

 

確かにウォルター・ヒル監督のウォリアーズの雰囲気が好きな人には堪らない絵面だし、アクションシーンの躍動感は白眉です。

ただ内容は、紹介文にあるような強奪された麻薬をとりまくバイオレンスアクション‥‥というより、良くできた近未来管理社会のディストピアSF

講談社はそこのところをもっと推してほしかったなあ。

 

とにかく構成、登場人物の書き分けとエンディングのまとめ方は見事すぎる!

 

 

朧燈地区という、廃墟となった川崎の浮島のような工業地帯が舞台で、クソな役割を演じ、クソな死に方をする登場人物達。

無法地帯で自由に無秩序にふるまっているかのようなチンピラ達も、結局は権力の監視下で飼われた犬であり、乱痴気騒ぎを繰り返していた大好きな遊び場はその管理事務所でした。

 

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暴虐外道無法地帯ガガガガ 4巻

そして今までは薬物の実験場として特権階級に御目溢しされていた朧燈地区も、警察国家を作る法案を成立させる為のスケープゴートとして潰されること決まります。

 

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そこでヤクザの匂坂は愛すべきチンピラ達の花道として、賭けの殺し合いの舞台をつくることで、チンピラの死に意味(金額)をつけ、権力に利用される前に清算しようとします。

 

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そしてさらにドラッグ元締めのリタは、匂坂のデスゲームの企みを利用し、強力なZ(ドラッグ)を流通させることによって、表舞台(朧燈地区)と裏舞台(特権階級)の境界を壊すことを画策します。

 

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大筋での舞台背景はこんなところ。

 

そのような舞台で、三兄弟(レキ、タク、リン)に強奪されたZ(麻薬)を取り返す命令をおびたベニマル、レーイチが踊らされます。

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そしてすべての思惑が重なった時はじまるデスゲーム。

 

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著者は相当ページ削られて畳むの大変だったとのことでしたが、最終話一話上で「馬鹿には勝てん」系のさっぱりエンディングをベースに、三兄弟との決着や今後に続く意味深なシークエンスを多数おりまぜ、余韻をのこしつつきれいにまとめています。

 

そのシークエンス達。

弟の誤射であっけなく死ぬ長兄レキ

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Zの効果を示しつつ死ぬ次兄タク

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このままでは終われないと崩れ落ちる末弟リン(Z接種済)

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長兄レキに裏切られた過去の描写とレーイチの述懐

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帰還するヘリコプターの中で、何かを思う匂坂

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終わりの始まりのきっかけ

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リタの回想

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キリへの贖罪

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決着の後、Zの副作用を匂わすように不意に反転したベニマルの画像。

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これが最終話のメインエンド話の間にキレイに挟まるんです!

 

 

この漫画の逆説的にすごいところは、いくら説明しようと面白さが伝わりづらい所。けど10年かけて作者と出版社が完結させた所。

しかし読めばわかる面白さ。埋もれさせるにはもったいない傑作です。

発行部数8000部/巻なんて信じられない!

1コマ1コマに込められた熱量と、構成が生み出す疾走感、背景が生み出す説得力がはんぱない。

 

 

流行りの萌え絵じゃないし暴力描写を売りにしちゃう?

あれ?

そういう意味では『伝説のハードコア・バイオレンス』『唯一無比のハードコア・バイオレンス』『圧倒的ハードコア・バイオレンス』の作品紹介もしょうがないか‥‥。

でももっといい売り方もあったのではと悔やまれるんですよ。

 

 

 

 

 

 

 

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コロナって人民にも共産党幹部にもすべからく平等に混乱と死を与えるものとして、研究者が故意に漏らしたウィルスという妄想を最近してました。

 

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メメントモリ

リタのやりたかったことってこういうこと?

 

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同年代のアフタヌーン四季賞に「ZNTV東京支局」という名作がありました。

こちらの漫画も棄民をテーマとする近未来SFでお勧めです。

 

TV(ネット)で画像を見た民衆のリアクションが真逆ですけど。

 

「オモシレーぜ コレは‥‥‥」

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「やめとけって‥‥な?」

「今夜一晩ぐらいはオレたちのために悪い夢でもみてください」

 

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