「暴虐外道無法地帯ガガガガ」山下ユタカ 著
作中の1日を、紆余曲折の上10年かけて完結させた大傑作。
ただ何というか。
作品紹介文が『伝説のハードコア・バイオレンス』とか『唯一無比のハードコア・バイオレンス』とか『圧倒的ハードコア・バイオレンス』とか‥‥本質はそこじゃないでしょうと。
確かにウォルター・ヒル監督のウォリアーズの雰囲気が好きな人には堪らない絵面だし、アクションシーンの躍動感は白眉です。
ただ内容は、紹介文にあるような強奪された麻薬をとりまくバイオレンスアクション‥‥というより、良くできた近未来管理社会のディストピアSF。
講談社はそこのところをもっと推してほしかったなあ。
とにかく構成、登場人物の書き分けとエンディングのまとめ方は見事すぎる!
朧燈地区という、廃墟となった川崎の浮島のような工業地帯が舞台で、クソな役割を演じ、クソな死に方をする登場人物達。
無法地帯で自由に無秩序にふるまっているかのようなチンピラ達も、結局は権力の監視下で飼われた犬であり、乱痴気騒ぎを繰り返していた大好きな遊び場はその管理事務所でした。
そして今までは薬物の実験場として特権階級に御目溢しされていた朧燈地区も、警察国家を作る法案を成立させる為のスケープゴートとして潰されること決まります。
そこでヤクザの匂坂は愛すべきチンピラ達の花道として、賭けの殺し合いの舞台をつくることで、チンピラの死に意味(金額)をつけ、権力に利用される前に清算しようとします。
そしてさらにドラッグ元締めのリタは、匂坂のデスゲームの企みを利用し、強力なZ(ドラッグ)を流通させることによって、表舞台(朧燈地区)と裏舞台(特権階級)の境界を壊すことを画策します。
大筋での舞台背景はこんなところ。
そのような舞台で、三兄弟(レキ、タク、リン)に強奪されたZ(麻薬)を取り返す命令をおびたベニマル、レーイチが踊らされます。
そしてすべての思惑が重なった時はじまるデスゲーム。
著者は相当ページ削られて畳むの大変だったとのことでしたが、最終話一話上で「馬鹿には勝てん」系のさっぱりエンディングをベースに、三兄弟との決着や今後に続く意味深なシークエンスを多数おりまぜ、余韻をのこしつつきれいにまとめています。
そのシークエンス達。
弟の誤射であっけなく死ぬ長兄レキ
Zの効果を示しつつ死ぬ次兄タク
このままでは終われないと崩れ落ちる末弟リン(Z接種済)
長兄レキに裏切られた過去の描写とレーイチの述懐
帰還するヘリコプターの中で、何かを思う匂坂
終わりの始まりのきっかけ
リタの回想
キリへの贖罪
決着の後、Zの副作用を匂わすように不意に反転したベニマルの画像。
これが最終話のメインエンド話の間にキレイに挟まるんです!
この漫画の逆説的にすごいところは、いくら説明しようと面白さが伝わりづらい所。けど10年かけて作者と出版社が完結させた所。
しかし読めばわかる面白さ。埋もれさせるにはもったいない傑作です。
発行部数8000部/巻なんて信じられない!
1コマ1コマに込められた熱量と、構成が生み出す疾走感、背景が生み出す説得力がはんぱない。
流行りの萌え絵じゃないし暴力描写を売りにしちゃう?
あれ?
そういう意味では『伝説のハードコア・バイオレンス』『唯一無比のハードコア・バイオレンス』『圧倒的ハードコア・バイオレンス』の作品紹介もしょうがないか‥‥。
でももっといい売り方もあったのではと悔やまれるんですよ。
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コロナって人民にも共産党幹部にもすべからく平等に混乱と死を与えるものとして、研究者が故意に漏らしたウィルスという妄想を最近してました。
リタのやりたかったことってこういうこと?
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同年代のアフタヌーンの四季賞に「ZNTV東京支局」という名作がありました。
こちらの漫画も棄民をテーマとする近未来SFでお勧めです。
TV(ネット)で画像を見た民衆のリアクションが真逆ですけど。
「オモシレーぜ コレは‥‥‥」
「やめとけって‥‥な?」
「今夜一晩ぐらいはオレたちのために悪い夢でもみてください」