「辺獄のシュヴェスタ」 竹良実 著
コロナが計画された疫病だとしたら?
そんな妄想をするうちに「辺獄のシュヴェスタ」を思い出しました。
再読。
何度読んでも見事なプロット。
全6巻(32話)と手軽に読めるものの、重厚な内容と展開。
未読の方にはぜひ薦めたい漫画の一つ。
残酷描写が~という声もありますが、少し古風な少女漫画っぽさを感じる絵柄だからか、意外とすんなり読めます。
緊張感、そのあとのカタルシスが堪らない名作です。
ネタバレでも揺らがないストーリーと丁寧な描写、深いテーマのある漫画ですので‥‥結末を言いますと、最後は少女達の笑顔で終わる大団円。
安全の担保された絶叫マシーンですのでぜひ。
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ここから先はさらにネタバレ含みます。
ストーリーの大筋は、割れた卵は戻らないと命の大切さを教えられた少女が、悩みながらも復讐の為に人の頭を卵のように割る話(既読の方に対しての超訳)。
これが本作のメインフレーム。
物語上殺害する結末は最初からの予想通り。
過程にある、狡猾な様々な試練や妨害を知恵と友情でクリアしてゆく所や仲間との絆が見所。
著者の体調不良説や打切り説などありましたが、結果論的には中だるみがなく最高のエンディングを迎えております。
どんなに面白いコンセプトの漫画でも、必要以上に延ばせば密度が薄くなってしまいがち。
「辺獄のシュヴェスタ」はもう少し読みたいという腹八分目のところで終わるので、読後感が胃もたれせずさわやかな感じです。
閑話休題。
この漫画の一番の魅力は主人公エラの、考えることを放棄せず、矛盾を飲み込み続けながら妥協せず生きていく力強い生き方。
肉体的、精神的にここまでタフで、優しさもそなえたヒロインの漫画を私は知らない。
そのエラの武器は、圧倒的な科学的懐疑主義なところ。
知識と観察で疑いつくし、それでも残ったものを選んでゆく。さらに自分の行いにでさえ自問自答を繰り返す。
対するエラの敵役のエーデルガルトは神の叡智(最先端の知識)を利用して宗教的奇蹟を演出、民衆を教化し理想的な社会を実現させようとする人物。
神を中心とした超管理社会を正義と信じて疑わない人。
SF作家アーサー・C・クラークの「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」との言葉の通り、寡占的に集めた知識を恣意的に奇蹟として利用していく。
魔女狩りも情報統制の一面を持っていたし
女子修道院が「見渡す者」育成の為の人体実験場だったり
票の為に人体実験で得た知識を使って奇蹟を起こしたり
疫病を恣意的に流行らせ治す奇跡の画策したり
目的の為なら手段を選ばず。
懐疑主義者の到達点として、先述のアーサー・C・クラークの「人類の一番の悲劇は、道徳が宗教にハイジャックされたことだ」の発言がありますが正にそれ。
そのような環境下でも、エラは修道院の奇蹟を徹底的に疑い、数々の試練を乗り越えていく。
だがその武器は諸刃の剣で、ストイックに自分の行いにも刃を向けてしまう。
後半は復讐という考えも変わっていくほどに。
そしてエラは自分の選択は何であれ、選択した行動の結果を他人のせいにはしない。
全てを背負い進もうとするエラに、まわりは突き動かされ運命は変わる。
エラの敵役のジビエさえも。
それだけに最終巻の裏表紙や帯のセンスだけはもったいなかった。
「少女は復讐の奴隷と成る」じゃないでしょう。
あと帯の「運命よ、お前にみせてやる。私が私自身を燃やしつくす炎の色を」の切り抜きデザインは‥‥格ゲーのキャラ紹介じゃないんだから。エラは炎使いか?
‥‥と、エラ礼賛を書きなぐっているうちに、4人の仲間達や舞台背景のことも語りたくなってきました。
ホント、全32話と短いですが密度ある漫画です。
傑作「辺獄のシュヴェスタ」を未読なのに、ここまでこの駄文を読んで頂いた方は、絶対読んで頂きたい。
漫画好きなら知らなきゃ損です!
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免罪符なんてものが横行し、ルターの宗教改革が始まった頃の時代背景。
作中でもがルターのドイツ語訳聖書やプロテスタント(抗議者)が重要な役割で出てきます。
最後に史実にあるパッサウ条約の記述が出てくると、本当にエラ達は実存したような気もします。
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かたやエラと対比するように自分の責任を他に預けてる人達。
自分の行動は神や上長が全て責任を持ってくれると、迷いなく正義を信じ残酷になれた人達の末路。
そうなるよね。
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一番好きなキャラはコルドゥラでした。
まさかこれがフラグとは‥‥。
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とは言えエラの生き方はしんどい。
しかし全てにおいて仲間を優先するという、マフィア的な身内主義にも逃げなかった。
単純な合理主義、身内贔屓だけでなく、タビタを救った話はだからこそ作中必要だったと思う。
そこに誘導したコルドゥラ、気づいたエラ尊い。
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先述のアーサー・C・クラークの「人類の一番の悲劇は、道徳が宗教にハイジャックされたことだ」にもある「道徳」という概念。
「道徳的に正しい」ことは、それを「道徳的に正しい」ということにした方が、社会の多数派の人が得をするから、それが「道徳的に正しい」ということにしただけであって、それは「真実かどうか?」というと、嘘なことが多いのです。
道徳というのは、嘘と欺瞞で作られた、便利で有益な装置なのだけど、それがそういう装置であることをみなが忘却することによって成り立つ装置なのです。
とすると、エーデルガルトにも三分の理はある?