とりとめのない雑記

雑記。に遠く及ばない何か。

Small man Big mouth つまらん男の大口たたき

月間漫画雑誌アフタヌーン四季賞が好きでした。

 

四季賞への投稿作を雛形に本誌連載になる作品も多く、読者はアマチュアからプロへの羽化の瞬間に立ち会える醍醐味がありました。

私的・内向的な投稿作品や、荒削りだが勢いを感じる投稿作品の作者が、同誌でキャッチーな連載で売れ始めるところを見れることが多々あり、育成番組を楽しむような感覚でも楽しめました。

 


2005年に発売されたアフタヌーン四季賞CHRONICLEの収録作品を見ると、四季賞後にヒット作を輩出した歴々の受賞者の名前が確認でき、その気分を想像できると思います。

 

四季賞作品を再読したいニーズは、kindle四季賞CHRONICLEが読めることや、ヤフオク四季賞Portableの出品があることから分かる通り、一定数はあると思います。


しかし、林田球さんの1997年の受賞作「ソファーちゃん」のように、アフタヌーン四季賞CHRONICLEやドロヘドロのムック本などに再録され、あたかも作中のソファーちゃんのように再会できる幸運な例はあるものの、90年代の受賞作は再読できる機会も少なく埋もれてしまった受賞作品も多いです。

 

そんな埋もれた作品と作者へのラブコール。

 

楠岡大悟さんは1992年に「少年少女」にて四季賞受賞後に、翌年本誌にて「スモールマンビッグマウス」の連載を始めます。

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少年少女 (アフタヌーン 1992年10月号)

連載と言っても、1話目はスペシャル読み切りとして掲載され(Part1の表記がない)、好評だったため連載が決まったのか2話めからPart2のナンバリング表記がつきました。

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スモールマンビッグマウス (アフタヌーン 1993年2月号)

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スモールマンビッグマウス (アフタヌーン 1993年5月号)

 

スモールマンビッグマウスの1話目は、同じ小学校時代の担任に恨みを持つ郵便局員と恩義を感じている看護師との話。
第2話は職場に内緒で文芸誌に投稿を続ける同僚の話。
第3話は職場に監査がくる話、と郵便局を舞台に繰り広げられるコメディータッチの漫画で、画力も内容もしりあがりに良くなっていった漫画です。


当然、彼も四季賞の先輩受賞者のようにスターダムにのし上がるのだろうと思ってました。

 

しかし9月登場予定告知があった第4話は掲載されず、その後も誌面で見ることはなくなりました。

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スモールマンビッグマウス (アフタヌーン 1993年7月号)

 

第一話の作者近況報告に

公務員は副業が厳禁なので、「本業は漫画家です。公務員は趣味です」と上司にいったら一喝されました

とありました。

作品は全話コメディタッチですが、表紙で「全国30万郵便職員とそのご家族、ならびに郵便を利用されるすべての国民の皆さまへ!」の文言と過激なイラスト、本編では郵便局内裏側のことを赤裸々に描いていること、副業厳禁の話と併せて問題となり、予告のあった4話が掲載されなかった原因かなと思っておりました。

折しも2004年は郵政民営化議論の只中でした。編集部の「万歳!お役所仕事」のキャッチコピーも過激でした。

 

時が過ぎて2004/11/12付の高知新聞

郵便ポストにぬれた吸い殻などを投げ入れ、郵便物を汚したとして、高知署は11日、郵便法違反容疑で高知市万々元郵便局職員、楠岡大悟容疑者(35)を逮捕
「1992年4月、高知中央郵便局に採用され、2000年9月に高知東郵便局に異動。2002年12月に依願退職した当時は郵便課主任として、主に郵便物の仕分けを担当していた」

との記事。

四季賞受賞時が1992年23歳高知県在住、事件時は2004年35歳高知県在住。元郵便局員。PNと同じ容疑者名。辻褄はあってます。

スモールマンビッグマウスの主人公の「コボくんの横にこんな記事でも載ったらどうする?」状態です。

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退職時期に関しては、2話目のごあいさつ漫画のコメントに

なんとなく学校へいったり、やめたり、なんとなく就職したり、退職したりと、なんとなく生きてきましたが”これじゃダメだ・・・”と力なく筆をとったのがきっかけでマンガを描くようになりました。

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スモールマンビッグマウス (アフタヌーン 1993年5月号)

 

とありましたが、当時郵便局は辞めてなかったのでしょう。

 

このコメントと2話目の周囲に内緒で文芸誌に投稿している話はリンクしており、味わいのある一番好きな話です。データ入稿なんてない時代!

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スモールマンビッグマウス (アフタヌーン 1993年5月号)

 

 

1992年の四季賞受賞時のコメントは、スモールマンビッグマウスの作風や柱の近況報告からは想像できない生真面目なものでした。

初めて最後までキチンと描き上げた作品で、何かの賞をもらうなんて全くの他人事だと思ってました。自分にこんな幸運が飛び込んでくるとは妙な気分です。一発で終わらないように努力します。

 

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アフタヌーン 1992年8月号

 

漫画家としてやってゆきたい意思は感じられます。
しかし実際には予告はあれど連載は止まってしまいました。

 

 事件を伝える高知新聞

郵便局に恨みがあり50回くらいやった

との楠岡大悟さんのコメントと拝見すると、局内で何かがあった気はします。

ただネットもない閉鎖的な時代の中、さらに閉鎖的な田舎の公務員社会で何があったのかは分かりません。

この時代にTwitterでもあれば・・・。

 

PNを変え、何か創作は続けておられるのでしょうか?


高知県繫がり漫画で、黒咲一人さんの「55歳の地図」が好きです。楠岡さんもその位の御年になられてると思います。
事件の真相や当時の郵便局の様子を作品に昇華した顛末記を読ませて頂きたいなあ。

 

きっと名作になるに決まってます!