マンガ雑記

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マイボーイ 木村紺 著 打切りなんかじゃない!

木村紺さんの漫画「マイボーイ」は前作「からん」と同様の格闘技を中心とした青春群像劇です。

 

4巻のボリュームが異様に厚く打ち切りっぽい終わり方でしたが、全体的に上手くまとまっており、最終巻の20話までの間で主題と思われるテーマを丁寧に描き切ってます。

 

21話から最終話までの3回は、打ち切りが決まったからか駆け足の展開です。

最終話の渋谷の大型ビジョンを見上げ・・・打ち切り感がにじみでているラスト。

 

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Amazonのレビューでは「からん」同様打ち切りかと嘆く方もいます。

続きがあれば私も見たい。

 

 

そんな「マイボーイ」を打ち切りの残念漫画にしたくないよという話。

間違いなく4巻完結の傑作です。

 

 

木村紺さんといえば優しい絵柄とキレキレのセリフ回しに目が行きがちですが、博識で緻密なプロットを描かれる作家。

 

 「マイボーイ」は青春群像劇で「巨娘」的なノリを出しつつ、「からん」的な格闘技に対する真面目な深掘りと、二つの軸をバランス良く織り込んだボクシング漫画でした。

 

登場人物も魅力的。

ジムのメンバーや周囲の人達は、いじめ、虐待、育児放棄、破産、離婚、DV、パンチドランカーなどの暗い過去を持ちますが、過去の不幸をふりかざすことなく、明るく生きています。また破産したジムに残ったメンバーが、結束力をつよめていくところも丁寧に描かれています。

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トレーナーの少女響も、巨乳中学生というアフタヌーン読者に媚びた造形になってるだけと思いきや、一線級の小学生ボクサーで、成長して巨乳になったことがハンデになり選手を引退したという背景もあり、ただの色物キャラではありません。

そして響が女であること、トレーナーであることが、「マイボーイ」の根幹を表す最も要なこととなっています。

 

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「マイボーイ」の実質のスタートは、新春読み切り「大好き!の 弥太郎君」から(初出が2014年1月発売 good!アフタヌーン#39)。

 

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その2ヶ月後、アフタヌーンでの連載開始が2014年3月発売の5月号から。

連載の流れを見据えた感じで、読み切りには主要メンバーは全員でています。

 

これを3巻に収録したのは、ちょうど連載で主要メンバーの背景を描き切り、ボクサーになるきっかけの話がでたからでしょう。

皆のボクシングするきっかけを昔の響が作っていた点や、話の展開が弥太郎の狂言回しに頼りすぎている点で、いささか御都合主義的な印象がありましたが、この順番で読むとしっくりきます。

 

また読み切りから続く弥太郎と華子の関係は最終話で無理なくオチをつけており、今後のチョビと響の関係を予兆させます。

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「大好き!の 弥太郎君」と似た展開で1巻のおまけまんがの登場人物が17話で登場のくだりもあります。

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 マイボーイ 1巻 おまけまんが

 

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マイボーイ 17話

 

こういう細かいプロットも上手い作家です。伏線を細かく回収します。

 

またタイトルは、名トレーナーのエディ・タウンゼントさんの言葉からでしょう。

エディ・タウンゼントさんは旧来の体育会系の日本の指導方法を改め、6人の世界王者を育てた名トレーナー。

タイトル以上に、彼のエピソードは「マイボーイ」のテーマとして重要なプロットになってます。

 

前作「からん」の女子高校生主人公は、本人の自覚の有無は別として、卓越した頭脳と才能をもって部活内の人間関係を支配していたきらいがありました。

柔道への造詣や人間心理の描き方が秀逸で面白い漫画なのですが、そこが少々鼻について。

 

今作でも第1話の表紙の煽り文句「勝ちたきゃ、言うこと聞きやがれ」のような、人間関係支配系の話かなと思いきやさにあらず。

(ちなみに単行本にはこの煽り文句はありません)

 

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回が進むつれ信頼関係が生まれ

 

トレーナー > ボクサー

男     > 女

の力関係がイーブンになっていくというプロット。

 

 

パンチドランカーの父の再来を防ぎたい。知識はあるが感情を理解できない響

「アタシが勝たせてやったのに」

恩義のある会長のボクシングスタイルに拘るチョビ。響が女であることを理由に

「リングで試合したこともないだろうし」

 

トレーナーであること、女であること。すれ違いと邂逅。信頼関係の構築。

 

ボクシングの知識と勝負勘はあるが強気でまだまだ幼い女子中学生と

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気弱で優柔不断のハードパンチャーの19歳という二人の設定、丁寧な描写がなしえた傑作だと思います。

 

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「マイボーイ」のネタ元のエディ・タウンゼントさんの有名な言葉

 

(ジムにおいてあった指導用の竹刀を見て)
「あれ捨ててよ。あれあったらボク教えないよ。牛や馬みたいに叩かなくてもいいの。言いたいこと言えば分かるんだよ」

「他の人から学びたいなら、完全に従うことを決心しなくてはならない」

「試合に負けた時、本当の友達が分かります」

「いい彼女を作りなさい」

「ボクは、ハートのラブで教えるの」

 

を現代風に解釈すると、こんな物語になるんだなあと。

(実際のエディ・タウンゼントはダークな部分もあるけど)

 

 

歴史的背景や「あしたのジョー(1967年)」、「サイモン&ガーファンクルのボクサー(1969年)」からの影響で、ほおっておくと暗い昔語りが始まってしまいがちなボクシング漫画。

同時期同誌に連載されていた高橋ツトムさんの「BLACK-BOX」がまさにソレでした。

 

 「マイボーイ」はパワハラモラハラジェンダーの問題をさらりと織り交ぜ、軽やかな筆致で描ききった傑作だと思います。

 

(小次郎の表紙やエピソードはちょっと浮いてる感じですが、重くない読後感でDVの話を描いたのは必要だったと思います。反面服従のイメージから、4人の選手に犬の愛称(チョビ、ポチ、ジロー、タロー)をつけた思うので、小次郎がフッカーで一皮むける話があればパーフェクト。元ネタ繋がりでデンプシーロール?)

 

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コロナの影響でどこにも行けなかったGW、だらだらと漫画を読んだとりとめのない感想でした。

 

会社行きたくねえなー。

 

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ここまで完成された漫画ですが、正直言うと、続編をWebでお願いしたい漫画の一つです。

 

アフタヌーンには、山下ユタカさんの「暴虐外道無法地帯ガガガガ」(フロムダスクティルドーンのノリで映像化してほしい)のように連載雑誌変更 ⇒ Web配信 ⇒ Kindle版で最終巻と1幸運にも10年かけて走り切った作品もあるのでぜひ。